く、と笑った。その瞬間、ふわりと煙が口から漏れていった。
美しい星空が広がっている。濃紺の闇があたりを包んで、美しい夜を編み上げていた。空気は冷たいが、澄んでいる、とは言い難い。煙草の煙をもう1度口に含んで、吐いた。
「日付が変わったぜ」
そう言うのが聞こえて、何かが投げ渡された。右手でキャッチすると、薄っぺらいチョコレートだとわかる。
「メリークリスマス、リード」
傭兵仲間が笑うから、リードもにっと笑って手を振った。
塹壕の中でクリスマスを迎えたらしい。現在は銃撃も止み、向こうは戦闘をやめている。一応塹壕の中で警戒はしているものの、おそらく今夜は攻撃を再開しないだろう。相手は、熱心に神を拝む国だったから。
チョコレートの包みを破いて、中身をがりと噛み砕く。甘い。甘ったるいほどの味が、今は心地いい。戦闘の緊張で張り詰めていた神経を癒やすにはちょうどいい甘さだった。
酒もあればもっと良いが、さすがに警戒中に酒を飲むわけにはいかないだろう。――――酔っていても、銃弾を当てる自信はあるが。
今夜はきっと、あいつらもクリスマスを祝うのだろう。
そう、リードはなんとなく思った。
リックたちは今夜、たしかクリスマス会をすると話していた。リックに1度誘われた気がしたから覚えている。……戦闘の予定はその時から決まっていたから、断ったのだが。
チョコレートをしまい、また、煙草に口づける。何となく最近は、女がほしいとも思わなくなっていた。歳かな、と嗤いつつも、戦場を去ろうとしない自分が可笑しい。
今日はクリスマス、あいつらにやれるプレゼントなんて、おそらく1つだけだろう。
「メリークリスマス、リック。それに、みんな」
戦争をさっさと終わらせて、『平和』というやつを届けよう。
祝の言葉は、紫煙と共に風と消えた。
企画創作「幸房FAUSTO」のクリスマスイベントに参加したものです。